2019年1月6日日曜日

スタッフインタビュー vol4. 看護師長・竹村言栄 「医療」ではカバーしきれない部分まで「看護」の力で見つめる

クリニックにお越しいただく皆さんと、スタッフ一同、普段、コミュニケーションをとる機会はありますが、私たちのライフヒストリーについてお話することは滅多にありません。スタッフ同士でも、意外と知らないこともあります(笑)。皆さんに、より安心して、クリニックにお越しいただき、お話いただけるよう、スタッフのインタビュー記事を連載してまいります。第4弾は、看護師長の竹村言栄です。





Q:看護師になろうと思ったきっかけは何ですか?

 高校生の頃、特段なりたいものがなかったのですが、親から、このご時世だから何か資格をとったほうがいいって言われて。とはいえ、女性で資格をとってやれる仕事って、当時はそんなに選択肢がなかったんです。最初は保母さんがいいかなと思いましたが、その頃、保母さんはすごく余っていたんです。いま求められているのは医療かなと思って…。ちょうど高校の友達のお母さんが看護師をしていて、友達も看護師を目指すって言っていたので、じゃあ私もなろうかなって、看護の専門学校に進学しました。結局その友人は看護師をやめて、違う仕事をしていますが(笑)。

Q:ではそんなに看護師への強い憧れがあったわけではなく…?

 いま思い返すと、親の病院に付き添って行った時とかに、看護師さんを見て、かっこいいなと思っていたところはありますね。でも、もちろんその時は”きれいなところ”しか知らなかったので、実際になってみたら、かっこいいだけではない面もたくさん知ることになりましたが(笑)。

Q:それでも看護師の道からぶれることはなかったのですか?

 なかったですね。逆に、意外に自分に合っているのかもしれないと思いました。ずっと座っているデスクワークとかは絶対に嫌で、動いているほうが好きでしたし、いろんな人と接していたほうが楽しいとも思っていたので。看護学校の実習の時も、自分の担当の患者さんと結構仲良くなって、会話をしているのがすごく楽しかったんですよね。 

Q:コミュニケーションの仕事なんですね。

 そうですね。もちろん中には大変な患者さんもいましたけど。でも、そういう人のこともだんだん客観的に見られるようになりました。頭ごなしに、この人嫌だって言うのではなくて、その人の背景にも目を向けてみる。何か理由があってこうなっているかもしれないと考えたり、こういうところもあるけど、他の面もあるかもしれないと思いながら話をしたり… 。
 普段の人間関係でもそうですが、「この人嫌い」って思ったら、話ができなくなってしまうじゃないですか。だから見えていない部分を想像しながら話をします。そうして新しい部分を発見できたときが、看護師をしていて楽しい瞬間ですね。



Q:就職の際はご自身で何科に入るか決めたのですか?

 私が就職した時は、あまり希望は通らなくて、たまたま脳神経外科に配属になりました。脳外科のチームで6年働きましたが、「看護の力」というものを感じるような場面が少なからずありました。脳の障害の場合、特に若い人であれば、薬以上に周りからの刺激が、脳細胞を生き返らせるうえで有効だったりするんです。
 一番感動したのは、ある妊婦さんが麻疹にかかって、子どもが生まれてから頭に障害が残って寝たきりになってしまったんですね。その女性を私たちがマッサージしてあげたり、座らせてあげたり、髪の毛をきれいにしてあげたりしていました。そうしたらある日、だらーんとしていた手がピクって動いて!ずっと付き添っていた義理のお母さんと一緒に大喜びしました。そこから彼女はみるみる回復して、最後は歩いて帰れるようになりました。
 これは医師による「治療」ではできなくて、24時間関わっている看護師の「ケア」だからこそできたことだと思っています。こうした経験が脳外科にいた時には結構ありましたね。その脳外科で6年働いてからは、ずっと循環器にいます。

Q:看護師さんの場合は、科を変わるんですね。知識の習得など大変そうですね。

 結構変わりますね。変わることで良い面と悪い面の両方があるとは思います。ただ、同じところにずっといて専門性を追求していると、つい病気のほうに意識が向きがちです。看護の場合は、病気を見るのではなくて、「全人的(ぜんじんてき)」というのですが、その人自身、その人全体を、見ることが大切です。心臓の病気がある人が脳梗塞になったりと、合併症も少なくないですしね。幅広い知識をもっていたほうが、患者さんと深く関われるのではないかと思います。

Q:幅広い知識を持っていたり、全人的に患者さんを見ることは、クリニックでは一層活きてきそうですね。

 それはあると思いますね。いろんな科を見てきたこと、そして自分自身の人生経験も、クリニックに来てからは特に役に立っていると思います。
 当クリニックでは、看護相談室というものを設けていて、そこで患者さんが看護師と個室でゆっくり話をできるようにしています。そのときに、自分の母親が難病であることや、父が介護認定を受けて施設に入っていること、私自身、婦人科と胆石で3回手術を受けたことなどの経験が、患者さんとの共通の話題になって、より近く、より深く話ができることはありますね。
 先日も、ある患者さんが高血圧で来院されたのですが、お話をしていくうちに、旦那さんがうちの母親と同じ難病だと分かったんです。旦那さんの病気に関する心配事があるから、動悸がしたり、血圧が上がったりしてしまっていた。それは治療行為だけでは見えなかった部分ですよね。
 別の患者さんは、数日間食欲がなくてご飯を食べられず、手が痺れる症状で来院されました。でも採血や検査をしても特に異常は見つからない。点滴をしながらお話をしていたら、職場の人間関係が難しくて仕事を辞め、その頃から食事がとれなくなったことや、そのことを親御さんに打ち明けられず悩んでいることなどを、泣きながら打ち明けてくれました。こうした心理的な状況は、点滴では治らないですし、医師がいくらご飯を食べるよう指導しても、変わらないですよね。
 医療で治る病気もあれば、医療だけでは見えない、患者さんのバックグラウンドや周囲の環境が病気の要因になっている場合もあります。そこを医師と看護師が連携しながら、ケアしていくことが大切だと思っています。



Q:クリニックに入る前は看護師長の仕事をされていたのですよね?

 はい、東京の災害医療センター、ついで高崎総合医療センターで看護師長をしていました。一般の看護師として患者さんを直接ケアしていたのは36歳まで。そこから約10年は、看護師長として、患者さんやご家族とお話をする時間をもったり、看護師を育てる役割を担っていました。
 若い看護師を育てるのはとても楽しくて、すごく好きで、一時期は看護学校の教員になることも考えていたくらいです。私が師長を務めていた10年間で、ネガティブな理由で辞めた子が一人もいなかったことは、私の自慢ですね。
 だから正直、クリニックに移って、看護師長としてのキャリアパスから離れることには、葛藤がありました。でもクリニックの他のスタッフたちが、みんな素敵な人たちで、やる気に満ちている様子を見ていて、私も頑張らなくちゃって背中を押されました。
 普通のクリニックであれば、おそらくつまらないと思ってしまったと思うのですが、ここであれば、患者さんに自分が学んだ知識を伝えられるし、コミュニケーションもたくさん取れる。それはやはり楽しいですからね。楽しすぎて、この間も笑いすぎだって院長から怒られましたが(笑)。 

Q:笑い声が響いているクリニックって素敵ですね。初めて来院された方とかは特に、緊張されていることも多いでしょうから、笑うことでその緊張がほぐれたりしそうですよね。

 他院から移って来られる方も、話を聞いてもらえなかった、話ができなかった、という理由でいらっしゃる方が一番多いんです。目も合わせてくれなかったとか。
 病院とクリニックの大きな違いは、期間の長さだと感じています。病院は、1週間とか、限られた期間で入院して退院する方が多い。関われる期間が意外と短いんですよね。でもクリニックであれば、もっと長く関われますよね。だからこそ、深くも関わっていきたいと思いますね。
 病気以外のことでも何でも聞くし、私で相談に乗れることであれば、何でも話してくださいっていう姿勢は、これからもずっと患者さんに伝え続けていきたいですね。




Interview & Text & Photo / Ai.A

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